"re-gions"製作記 その2

さて、quartz-head 05のパートナー、オマール・ゲンデファルはイスラムの教えを守っているバイファルなのですが、日本で生活していると宗教というものに接する機会が非常に少なく、宗教に対するイメージが希薄でなんだかよくわからないと感じている人が多いのではないでしょうか。
quartz-head 01のカウンシル・バージョンで一緒にライブをしてくれたオマールと同郷のアブドゥ・バイファルも名前から分るとおりバイファルです。彼等はお酒を飲まない、豚肉は食べないのでラーメンも食べない、ただ中学校の時に勉強したような特定の時間にメッカに向かって祈る、という姿は見たことがないです。
このバイファルとはなにか?これがまた説明しにくいのですが、西欧の植民地化がアフリカで進み土地の宗教も徹底的に弾圧を受けていた時代に、イブラヒマ・ファルというイスラム教の聖人があらわれた、というのがバイファルの起源になっているようです。"re-gions"の8曲目はこのイブラヒマ・ファルに捧げられた歌になっています。quartz-head 01のアルバム"sen-tens"のバンバという曲もバイファルの聖者が海の上で祈りをささげたという伝説にもとづいています。
バイファルと同じようなイスラムの宗派の一つにボブ・マーリーで有名になったラスタがありますが、彼等にいわせるとラスタの起源もバイファルにあるようです。

なかなか私もきちっと把握できていない所もあるので、彼の宗教についてはこのくらいにして、レコーディングの話しに戻りましょう。

icchieと二人で作ったトラックを都内某所のスタジオに持ち込み、オマールとレコーディング・セッションをしました。彼にはあらかじめトラックを聴いてもらっていたものの、ほとんどその場のインスピレーションにまかせて歌っていました。まずトラックを聴きながら歌が「降りてくる」までラフにセッションします。するとオマールが「オゥケイ、レコーディング!」となったら、彼にその歌の内容をかいつまんで話してもらいます。そして3人のイメージの統一を図ったのち、一気にレコーディングしていきます。プレイバックを聴いてオマールがパーカッションを足したいというアイデアがあれば重ねて録音していくという流れでレコーディングを進めていきました。

オマールを知る上でイスラムと同じように重要なのがグリオという彼の家系です。このことは2曲目で歌われています。彼の歌はウォルフ語というセネガルの共通語(フランス語も共通語であるそうです)で歌われているのですが、ウォルフ語ではグリオをN'Guewllと言います。グリオは土地の王様の使者として音をつかって民衆に王様の意志を伝えるという役目をになった家系をいいます。時には争いごとをおさめる調停者の役割もになっていたようです。

グリオの家に生まれ、幼いころから徹底した音楽教育をうけていたオマールですが、伝統音楽の修行とおなじくらいボブ・マーリーに傾倒していたのだそうです。ボブ・マーリーの社会的メッセージをもった歌とラスタ〜バイファルの思想はつながっていると思いますが、そういう歌が4曲目の「カレ・ユンダオ」です。今、中東で起こっている戦いで私達が強く思い起こさなければならないのは、その犠牲になっているのは子供たちであるという事実です。「テロとの戦い」とか「アメリカによるグローバリズムへの抵抗」といった戦う理屈はそれぞれあるかもしれませんが、未だ自分で世界を考えることのない無垢な子供たちが犠牲になってよいのか?というメッセージが込められています。

バイファルという宗派で培われたメッセージをグリオという家系の血が人々に伝えていく。アルバムの最後のトラックは高円寺のペンギンハウスで録音したライブトラックですが、異なる文化で育くまれた"Wo Lo"(信頼)という言葉も、日本の今の風潮で感じる信頼という言葉とはちがう重さを感じ、襟をただす思いです。

アルバムタイトルトラックの"accept the regions"はicchieのダブやオマールの歌といった異なる世界の思想を積極的に受けいれることで自分を次ぎのステップへ進めていきたい、という気持ちを込めてつけました。

皆さんもぜひ、彼等の世界を受け入れて明日への糧にしていただければと思います。

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quartz-head talk 05 (icchie, omar, quartz head)

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Posted by fujiwara at July 10, 2007 02:09 PM